
コラム
「単なる物忘れ?」ときになったらー認知症の初期症状と早期受診の大切さ
いつも佐野クリニックのコラムをご覧いただきありがとうございます。
秋から冬へと差しかかる11月は、日照時間が短くなり、急激な寒暖差や冷え込みによって外出の機会が減りやすい時期です。ご高齢の方では、活動量の低下や社会的刺激の減少に伴い、「最近、少し様子がおかしいかも?」とご家族が変化に気づくケースが少なくありません。
当院でも、「家族の物忘れが増えて心配」「認知症の検査は受けられるか」といったご相談をいただく機会が増えています。
今回は、多くの方が抱く「加齢による物忘れと認知症の違い」や「見逃したくない初期サイン」、そして「早期に受診・相談するメリット」について分かりやすく解説します。
1. 「加齢による物忘れ」と「認知症」の違い
年齢を重ねると誰しも「人の名前が思い出せない」「物をどこに置いたか忘れる」といった経験が増えます。しかし、加齢による自然な物忘れと、病気としての認知症には明確な違いがあります。
| 項目 | 加齢による物忘れ | 認知症による物忘れ |
| 忘れる範囲 | 体験の一部(例:朝食のメニューを忘れる) | 体験の全体(例:朝食を食べたこと自体を忘れる) |
| 自覚 | 忘れている自覚がある | 忘れている自覚がない(指摘されても否定する) |
| 日常生活への影響 | ヒントがあれば思い出せる/生活に大きな支障はない | ヒントがあっても思い出せない/生活に支障が出る |
| 進行 | 進行は非常に緩やか | 徐々に進行し、判断力や理解力も低下する |
一番のポイントは「体験したこと自体をまるごと忘れてしまうかどうか」です。置き忘れた鍵を探す際、「どこに置いたっけ?」と探せるうちは加齢の影響であることが多いですが、置き忘れたこと自体を理解できず「誰かに盗まれた」と思い込んでしまう場合は、認知症の初期症状の可能性があります。
2. 代表的な認知症の種類と特徴
認知症は単一の病名ではなく、脳の病気や障害によって認知機能が低下した状態の総称です。主に以下の4つのタイプがあります。
① アルツハイマー型認知症(全体の約6割)
脳内に異常なタンパク質が溜まり、脳の神経細胞が少しずつ壊れて小さくなる(萎縮する)病気です。
主な症状:直近の出来事を忘れる「短期記憶の障害」から始まり、進行すると日付や場所がわからなくなる「見当識障害」が現れます。
② 脳血管性認知症(全体の約2割)
脳梗塞や脳出血など、脳の血管障害によって起こる認知症です。
主な症状:できることとできないことが明確に分かれる「斑(まだら)認知症」や、感情のコントロールが難しくなる「感情失禁」などが特徴です。歩行障害や麻痺を伴うこともあります。
③ レビー小体型認知症
脳の神経細胞に「レビー小体」という特殊なタンパク質が集まる病気です。
主な症状:実際にはないものが見える「生々しい幻視」、手足の震えや筋肉の強ばりといった「パーキンソン症状」、調子の良い時と悪い時の変動が大きい「認知機能の動揺」が見られます。
④ 前頭側頭型認知症(ピック病など)
脳の前頭葉や側頭葉が萎縮することで起こります。
主な症状:記憶障害よりも先に、理性が利かなくなったり、万引きや社会的なルールを守れなくなったりする「人格変化・行動異常」が目立ちます。
3. 見逃したくない「認知症の初期サイン」
認知症は急に始まるのではなく、少しずつ変化が現れます。以下のような兆候がないかチェックしてみましょう。
記憶・判断力の変化
同じ質問や同じ話を何度も繰り返す。
約束の日時や時間を間違えたり、すっぽかしたりする。
買い物の際、小銭を使わずお札ばかり使ってお釣りの小銭が溜まる。
日常生活の変化
日課だった料理の手際が悪くなり、味付けが変わった。
家電製品の操作(リモコンや電子レンジなど)に戸惑うようになった。
身だしなみに気を使わなくなり、同じ服を着続けたり季節外れの服を選んだりする。
性格・気分の変化
これまで趣味にしていたことや外出に対して急に興味を失った(億劫がる)。
些細なことで怒りっぽくなったり、疑い深くなったりした(「物を盗まれた」など)。
4. 11月・冬場に注意したい「血管」と「生活習慣」のケア
11月から冬場にかけては、気温の低下に伴い血圧の変動が激しくなります。 特に高血圧や脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病をお持ちの方は、寒さによる血管収縮で脳梗塞や脳出血のリスクが高まり、それが原因で脳血管性認知症を発症・悪化させるケースがあります。
また、寒さで自宅に閉じこもりがちになると、家族以外との会話や運動量が減り、脳への刺激が乏しくなります。
日中の暖かい時間帯に散歩や日光浴をする
室内の温度差(ヒートショック)を減らすため暖房を適切に使う
減塩やバランスの良い食事を心がける
こうした冬場の血圧管理と生活リズム維持は、認知症予防・進行予防において極めて重要です。
5. 早期発見・早期受診の3つのメリット
「もし認知症だったらどうしよう」という不安から、病院への受診をためらってしまうご家族は少なくありません。しかし、早期受診には大きなメリットがあります。
治る可能性のある病気を見つけられる 物忘れの原因の中には、慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症など、適切な治療を受ければ元通りに治る(あるいは改善する)疾患が含まれています。
進行を遅らせる治療が早期に始められる アルツハイマー型認知症などの場合、完全に治すことはできなくても、お薬や非薬物療法によって症状の進行を緩やかにし、自分らしい生活を送れる期間を大幅に延ばすことができます。
ご家族の負担軽減と今後の準備ができる 病気に対する正しい理解を得ることで、接し方のコツが分かり、ご家族の介護ストレスを和らげることができます。また、介護保険サービスの利用申請や環境調整もスムーズに進められます。
当院での対応・受診について
当院では、内科・神経内科の視点から、物忘れや認知機能低下に関する初期診断とご相談を行っております。
問診・診察:日常の様子や気になる変化について丁寧にお伺いします。
認知機能テスト:簡単な質問形式のテスト(MMSEやHDSRなど)で状態を評価します。
身体検査・血液検査:全身状態や、認知機能低下の原因となる内科疾患の有無を確認します。
必要に応じた高次医療機関への連携:脳MRIやCTなどの画像検査、専門的治療が必要と判断した場合は、速やかに提携病院へご紹介いたします。
「ただの物忘れか、それとも病気なのか」をご自身やご家族だけで判断するのは非常に難しく、不安も募るものです。「最近少し変化を感じる」「相談だけでもしてみたい」という段階で構いません。
ご本人様はもちろん、ご家族様だけでのご相談も承っております。気になる症状がございましたら、どうぞお気軽に当院へご相談ください。


