
コラム
肩や太ももの激しい痛みとこわばり。「リウマチ性多発筋痛症」を知っていますか?
いつも佐野クリニックのコラムをご覧いただきありがとうございます。
「ある日突然、肩や腕が上がらなくなった」
「朝起きたら、太ももやお尻が痛くてベッドから起き上がれない」――。
このような症状がシニア世代の方に現れたとき、「年齢のせい(五十肩)だろう」とか、「寝違えただけだから、そのうち治る」と我慢してしまうケースがよくあります。
しかし、その激しい痛みと体の動かしにくさ、もしかしたら「リウマチ性多発筋痛症(PMR)」という病気かもしれません。
名前にリウマチとついていますが、実は関節リウマチとは原因も治療法も異なる、高齢者に決して少なくない病気です。
今回は、この病気の特徴や、五十肩との見分け方、劇的に効果が期待できる治療法についての話です。
1. リウマチ性多発筋痛症(PMR)とは?
リウマチ性多発筋痛症(Polymyaliga Rheumatica:通称PMR)は、主に50歳以上(特に60代〜80代の高齢層)に発症する、原因不明の炎症性の病気です。
男女比では、やや女性に多い傾向があります。
「筋肉の痛み(筋痛症)」という名前がついていますが、実際に炎症が起きているのは筋肉そのものではありません。
関節の周囲にある「滑液包(かつえきほう)」と呼ばれる、関節の動きをスムーズにするクッションのような組織に強い炎症が起こることが分かっています。
特に、首、肩、周囲の筋肉、お尻、太ももといった「体の中心に近い大きな筋肉の周り」に、左右対称に激しい痛みが生じるのが大きな特徴です。
2. 間違えやすい「五十肩」や「関節リウマチ」との違い
この病気は、初期段階で「五十肩(肩関節周囲炎)」や「加齢による関節痛」、「関節リウマチ」と非常に間違えられやすい特徴があります。
以下のポイントで見分けることが重要です。
① 五十肩(肩関節周囲炎)との違い
五十肩: 通常は「片側の肩」だけに起こり、動かしたときにピキッと痛みます。
リウマチ性多発筋痛症: 必ずと言っていいほど「両側の肩」が同時に痛みます。また、肩だけでなく、首、お尻、太ももなど、痛む範囲が広い(多発する)のが特徴です。
② 関節リウマチとの違い
関節リウマチ: 主に「手足の指」などの小さな関節が腫れて痛みます。放置すると骨が破壊され、関節が変形します。
リウマチ性多発筋痛症: 手足の先よりも、「肩や太もも」などの体に近い部分が痛みます。また、関節の変形を伴うことはありません。
③ 朝のこわばりと全身症状
関節リウマチと同様に、朝起きたときの「体の動かしにくさ(こわばり)」が非常に強く出ます。
重症な方では、朝は自力で寝返りが打てず、靴下も履けないほど体がガチガチになります。
さらに、全身の強い炎症を反映して、「37℃〜38℃台の発熱」「強い倦怠感(だるさ)」「食欲低下」「体重減少」といった全身症状を伴うことが珍しくありません。
3. リウマチ性多発筋痛症の「診断」と「治療」
原因不明の病気ではありますが、適切な診断を受ければ、治療によって劇的に回復する(劇的寛解を認める)ケースがほとんどです。
どのように診断するの?
リウマチ性多発筋痛症を「一発で診断できる特定の血液検査」はありません。
診断の際は、患者さんの年齢や症状の出方(両肩・お尻の痛みなど)を確認するとともに、血液検査で「CRP(C反応性蛋白)」や「赤沈(赤血球沈降速度)」といった、体内の炎症データが著しく上昇していることを確認します。
同時に、他の病気(悪性腫瘍や感染症、関節リウマチなど)ではないことを慎重に見極めます。
治療の特効薬は「副腎皮質ステロイド薬」
この病気の治療には、炎症を強力に抑える「副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロンなど)」の内服が極めて効果的です。
多くの場合、ステロイドを飲み始めてわずか数日(早ければ翌日)で、それまでの激しい痛みやだるさ、熱が嘘のように消え去ります。この「ステロイドが劇的に効く」ということ自体も、診断を裏付ける重要な要素になります。
症状が完全に落ち着いたことを確認しながら、数ヶ月〜数年かけて、医師の指示のもとで慎重に薬の量を少しずつ減らしていきます(自己判断で急に薬をやめると、ほぼ確実に再発するため、根気強い服用が必要です)。
4. リウマチ性多発筋痛症に関する「よくある質問(FAQ)」
Q1. ステロイドの副作用が心配ですが、大丈夫でしょうか?
A1. 高齢の方にステロイドを使用する際、最も注意すべき副作用は「骨粗鬆症(骨がもろくなること)」「糖尿病の悪化」「感染症へのかかりやすさ」などです。
しかし、リウマチ性多発筋痛症で使用するステロイドの初期量は「少量〜中等量(1日10〜15mg程度)」であり、他の膠原病で使うような大量投与ではありません。
また、治療開始と同時に骨粗鬆症の予防薬を併用するなど、副作用対策をしっかりと行いながら安全に減量していきますので、過度に恐れる必要はありません。
Q2. 治療期間はどのくらいかかりますか?
A2. 個人差がありますが、多くの場合は1年から2年程度かけてゆっくりとお薬を減らしていき、最終的な休薬を目指します。
比較的再発しやすい病気でもあるため、症状が消えたからといって自分の判断で薬を減らしたり中止したりするのは絶対に避けてください。定期的な血液検査で炎症の値を見ながら、安全に減量を進めます。
Q3. 「側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)」を合併することがあると聞きましたが?
A3. はい、非常に重要なポイントです。リウマチ性多発筋痛症の患者さんの数%〜10%程度に、「側頭動脈炎(頭の横の血管の炎症)」という病気が合併することがあります。こめかみ付近の激しい頭痛、物を噛んだときのあごの痛み、視力の低下(目のかすみ、視野が狭くなる)などの症状が現れた場合は、最悪の場合「失明」に至るリスクがあるため、一刻も早い大量ステロイド治療が必要です。このような症状に気づいた場合は、すぐに医師にお伝えください。
5. 結び:突然の動けない痛み、「年齢のせい」と諦めないで
リウマチ性多発筋痛症は、ある日突然、日常生活の自由を奪うような激しい痛みをもたらします。「もう歳だから…」「五十肩だから…」と我慢して寝込んでしまうと、筋力が低下してそのまま寝たきりになってしまうリスクもあります。
この病気は、適切な診断と少量のステロイド治療さえ始めれば、これまでの痛みが嘘のように消え、元の元気な生活に戻ることができる病気です。
「両方の肩やお尻が痛くて起き上がれない」「だるさや微熱が続いている」といった症状に心当たりがある方、またはご家族がいらっしゃる場合は、我慢をせずに、ぜひ一度当院までお気軽にご相談ください。


