
コラム
健康診断の「再検査」を放っておくとどうなる?
秋から冬、あるいは春先など、定期的に受ける「健康診断」。
お手元に届いた結果用紙を見て、「要再検査」や「要精密検査」という文字にハッとした経験はありませんか?
「少し数値が外れているだけだから大丈夫だろう」「今はどこも痛くないし、忙しいから後回しにしよう」
――そう言って、結果用紙を机の引き出しの奥にしまい込んでしまう方は少なくありません。
しかし、内科医として日々多くの患者さんと接している立場からお伝えすると、「自覚症状がないときこそ、最も大切な受診のタイミング」なのです。
今回は、健診の再検査を放置するリスクや、クリニックでは実際にどのようなことを行うのかをわかりやすく解説します。
1. なぜ「症状がないのに」再検査が必要なのか?
健康診断の最大の目的は、自覚症状が出る前の「病気の芽」を小さいうちに見つけることです。
特に、健康診断で引っかかりやすい高血圧、脂質異常症、高血糖(糖尿病)などの「生活習慣病」は、初期段階ではほとんど自覚症状がありません。
そのため医療の世界では、これらは「サイレントキラー(静かなる殺人者)」と呼ばれています。
「痛くも痒くもないから大丈夫」なのではありません。
実は、体の中の「血管」が、文句を言わずにひたすらダメージに耐え続けている段階なのです。
血液がドロドロだったり、血管に強い圧力がかかり続けたりすると、血管の壁は少しずつ硬く、脆くなっていきます(動脈硬化)。
そしてある日突然、限界を迎えたときに、脳梗塞や脳出血といった脳血管障害、あるいは心筋梗塞などの命に関わる大きな病気として爆発してしまうのです。
当院には神経内科の専門外来もありますが、脳梗塞などで倒れられた患者さんのお話を伺うと、「そういえば何年も前の健診で、血圧やコレステロールの再検査を言われていたけれど、放置していた」とおっしゃる方が非常に多いのが現実です。
動脈硬化が進む前にブレーキをかけること。それが、再検査の本当の意義なのです。
2. 放置すると怖い!数値の裏に隠れたリスク
では、具体的にどのような数値に注意すべきなのでしょうか。代表的な項目とその裏に隠れたリスクを見ていきましょう。
血圧が高い(高血圧)
常に血管に強い圧力がかかっている状態です。
ゴムホースに強い圧力をかけ続けると傷んでしまうのと同じで、血管の老化(動脈硬化)が急速に進みます。
将来的な脳卒中や心不全のリスクを高めます。
血糖値・HbA1cが高い(糖尿病の疑い)
血液中の糖分が多い状態が続くと、全身の細い血管が砂糖漬けのように傷ついていきます。
放置すると、将来的に網膜症(失明の原因)、腎症(人工透析の原因)、神経障害(手足のしびれや壊死)という「糖尿病の3大合併症」を引き起こすリスクがあります。
コレステロール・中性脂肪が高い(脂質異常症)
血液中に余分な油分が浮いている状態です。
これが血管の壁にドロドロとした塊(プラーク)としてこびりつくと、血管が狭くなり、やがて心筋梗塞や狭心症といった心臓の病気を引き起こす原因になります。
尿酸値が高い(高尿酸血症)
ある日突然、足の親指の付け根などが激しく痛む「痛風」が有名ですが、怖いのはそれだけではありません。
血液中に結晶化した尿酸が腎臓に溜まると、腎臓の機能を低下させ、慢性腎臓病へと進行することがあります。
3. よくある誤解:「再検査=すぐ強い薬を飲まされる」ではない
多くの方が再検査をためらう大きな理由の一つに、「病院に行ったら、すぐに強い薬を出されて、一生飲み続けなければいけなくなるのではないか」という恐怖心や不安があります。
しかし、これは大きな誤解です。
むしろ、早めの段階で受診していただければ、お薬を使わずに治療できるケースが非常に多いのです。
少し数値が基準から外れている程度であれば、まずは「食事のバランスを見直す」「軽い運動を生活に取り入れる」「睡眠やストレスをコントロールする」といった、ライフスタイルの修正からスタートします。
私たちの役割は、あなたに無理やり薬を飲ませることではありません。
「お薬に頼らなくて済む方法」を、あなたの生活習慣に合わせて一緒に考えることです。
仮にお薬が必要になったとしても、それは将来の大きな病気を防ぐための「お守り」のようなものです。
数値をコントロールして血管を守ることができれば、将来的に薬を減らしたり、止めたりできることも珍しくありません。
4. クリニックでの再検査って何をするの?
「また健診と同じ検査を繰り返すだけなら、行く意味がないのでは?」と思われるかもしれません。
クリニックでの再検査は、健康診断とは目的が異なります。
健康診断は、あくまで「大人数を対象に、ふるい分け(スクリーニング)を行う」ためのものです。
その日の体調や前日の食事内容によって、たまたま数値が高く出てしまうこともあります。
一方で、クリニックでの診察は「丁寧な問診」から始まります。
普段の食事や運動、睡眠の状況、ご家族に同じ病気をお持ちの方がいるか(家族歴)などを詳しく伺います。
その上で、一時的な数値のブレなのか、それとも本格的な治療や対策が必要な状態なのかを、必要に応じた追加の検査(再採血、尿検査、場合によってはエコー検査など)を行いながら総合的に見極めていきます。
5. 特定健診の受け入れと「かかりつけ医」の重要性
当院では、一般の健康診断の再検査・精密検査はもちろんのこと、40歳から74歳までの方を対象とした「特定健康診査(特定健診・メタボ健診)」の受け入れ・実施も行っています。
特定健診は、まさに生活習慣病の兆候を見つけるための国を挙げた制度です。
「今年度の受診券が届いているけれど、まだ受けていない」という方は、病気の予防・早期発見のために、ぜひ当院をご利用ください。
当院で健診を受けていただき、もし気になる数値があれば、そのままスムーズに再検査や治療、生活指導へと移行することができます。
病気になってから慌てて病院を探すのではなく、健康なとき、あるいは「少し数値が気になり始めたとき」から相談できる、地域の「かかりつけ医」を持つことは、これからの長い人生において大きな安心材料になります。
6. おわりに:数値を責める場所ではありません。お気軽にご相談を
「不摂生を先生に怒られそうだから行きたくない」 そう思って、受診をためらっている方もいらっしゃるかもしれません。
どうぞ安心してください。
クリニックは、あなたの生活習慣や数値を責めたり、怒ったりする場所ではありません。
お仕事や家事で忙しい毎日の中で、健康を維持していくのは本当に大変なことです。
私たちは、そんなあなたの生活に寄り添い、これからの健康を一緒に守っていくためのパートナーでありたいと考えています。
引き出しにしまったままの結果用紙(または特定健診の受診券)があれば、ぜひそのまま当院へお持ちください。
まずは結果を一緒に眺めながら、「これからどうしていくのがベストか」を気楽にお話ししましょう。
あなたの街の最初の相談窓口として、いつでもお待ちしております。


